詩の味わい

このページは、無名詩人 大手礼二郎(故人)の詩と、古今東西にわたる多くの詩人の有名詩を歌っていくページです。大手礼二郎詩集「風の思惑」と未刊の第二詩集以後、補遺、その他、管理人が好きな詩を中心に紹介して行きます。

2011年2月2日水曜日

異人さん ボードレール

−お前は誰が一番好きか? 云ってみ給え、謎なる男よ、お前の父か、お前の母か、妹か、弟か? 
−私には父も母も妹も弟もいない。 
−友人たちか? 
−今君が口にしたその言葉は、私には今日の日まで意味の解らない代ものだよ。 
−お前の祖国か? 
−どういう緯度の下にそれが位置しているかをさえ、私は知っていない。 
−美人か? 
−そいつが不死の女神なら、欣んで愛しもしようが。 
−金か? 
−私はそれが大嫌い、諸君が神さまを嫌うようにさ。 
−えへっ!じゃ、お前は何が好きなんだ、唐変木の異人さん? 
−私は雲が好きなんだ、……あそこを、……ああして飛んでゆく雲、……あの素敵滅法界な雲が好きなんだよ! 



「パリの憂鬱」 
訳・三好達治