朝の食事   ジャック・プレヴェール





朝の食事   ジャック・プレヴェール、大岡信訳
 


   あの人 コーヒーをついだ 

   茶椀のなかに 

   あの人 ミルクをいれた 

   コーヒー茶碗に 

   あの人 砂糖をおとした 

   ミルク・コーヒーに 

   小さなスプーンで 

   かきまわした 

   あの人 ミルク・コーヒーを飲んだ  

   それから茶碗を置いた 

   あたしにひとこともいわず 

   煙草に 

   火をつけた 

   煙草の煙を 

   輪にしてふかした 

   灰皿に 

   灰をおとした 

   あたしにひとこともいわず 

   あたしを一度も見ずに 

   あの人 たちあがった 

   あの人 

   帽子を頭にかぶった 

   あの人 

   レイン・コートを着た 

   雨が降っていたから 

   あの人 出て行った 

   雨の中へ 

   ひとことも話さず 

   あたしを一度も見ずに 

   そしてあたしは 

   頭を抱えた 

   それから 泣いた。 


これは男女の別離の場面の名詩なのですが、私なら最後の「頭を抱えた」の件の部分はいらないと判断するでしょう。 
その方が、片恋の人の気持ちにも通ずるような効果があるように思うからです。 
また、この詩は色々な翻訳がありますが、私はこの翻訳が一番だと思っています。 

ジャック・プレヴェールは映画「天井桟敷の人々」でも有名。マルチタレントの人ですね。




これが原文らしい。フランス語できます? 俺2回留年してるからな。。。 (-_-;)
机にうっ伏して泣きじゃくった、というくらいの感じでしょうかね? 
この詩の、淡々とした事実の列挙、この感じが好きなんです。この淡々とした感じが逆に、恋い焦がれる人との「距離」を実に遠い物にしているうまい作用があります。 


DEJEUNER DU MATIN 

Il a mis le café 
Dana la tasse 
Il a mis le lait 
Dans la tasse du café 
Il a mis le sucre 
Dans le café au lait 
Avec la petite cuiller 
Il a tourné 
Il a bu le café au lait 
Et il reposé la tasse 
Sans me parler 
Il a allumé 
Une cigarette 
Il a fait des ronds 
Avec la fumée 
Il a mis les cendres 
Dans la cendrier 
Sans me parler 
Sans me regarder 
Il s'est levé 
Il a mis 
Son chapeau sur la tête 
Il mis son manteau de pluie 
Parce qu'il pleuvait 
Et il est parti 
Sous la pluie 
Sans une parole 
Sans me regarder 
Et moij'ai pris 
Ma tête dans ma main 
Et j'ai pleuré. 

訳によってはわたし、あたし、僕、となってたりしますね。 
訳というのは難しくて、忠実に訳すよりもいい意味でいい加減に訳した方が、 
名訳になったりしますね。中也の訳なんてその典型でしょう。 
詩は誰がどのように読んでもイメージできるようなのが私は好きです。 
そういう意味では、主語は「わたし」としたほうがいいのかも。


コメント

  1. 私は、『私』ではなく、『あたし』のままでいいと思います。理由は.…なんとなくです。
    この詩はシャンソンだと聞いています。歌の内容により臨場感を持たせるためにも、『あたし』がの方が良いと、個人的には思っています。
    しかし、一切の感情表現を用いず、条件描写だけでこの冷めた別れの時をカフェ・オレを使って表現する。プレヴェール恐るべし。
    蛇足ですが、ラスト、私なら。
    そしてあたしは
    頭をかかえこみ

    泣いた

    にします。

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